京都生活 ー雨音に惚れてー

東京から京都に越して来て築90年?の家に住んでいます。見に来ていたときに降り出した突然の雨がトタンの部分に当たる音に惚れて決断した家です。おもしろいこと、すてきな場所、京都について感じたことについて綴ります。

嵯峨の男だるま

普通のだるまさんと違って目鼻がすっきりと面相筆で描かれていて真っ白なだるまさんなので、汚れるのが惜しくてずっと箱に入れたまましまってありました。実は貯金箱なのです。底のたまったお金を出すところに金色の紙がはってあって、「ふるさとのだるまシリーズNo.2 嵯峨男だるま(京都)」と書いてあります。

箱には「七転び八起きしてこそ男じゃないか 波間にゃ浮かばぬ世のならい」と書かれています。

 

これをいただいたのは、もう30年ちょっと前、私が若かった頃、ある画廊に勤めていた頃のことです。

その画廊があるビルの上の階に大家さんが住んでいらして、ご主人の脳血管障がいの後遺症のリハビリに奥様がつきそって毎日階段を上り下りして散歩にいらっしゃっていました。奥様は元芸者さんだということで、きめの細かい色白の肌をしたかたで、少し癇癪持ちのご主人を忍耐強く支え、週1回の踊りのお稽古だけをご自分のための時間として、それ以外は常につきそっていらしゃったようです。

 

ある日、おふたりが帰っていらしたとき、ご主人が「彼女に男だるまを」と言われ、奥様も賛同されて、このだるまさんを取り出して私にくださいました。

その頃、私はちょうど失恋して自信を失くして落ち込んでいたので、お二人の心遣いが嬉しくて、励まされる気がしました。ご主人は時に怒鳴ることがあっても、心優しいかたなのだと思いました。

その頃、銀行は預金した人に世界の民族衣装の人形とか、銀メッキのスプーンとかのシリーズを配っていたので、そのだるまさんも、ちょうどその日にもらったものだと思うのですが、人生経験を積んだおふたりは、もしかして私の様子を感じとられたのかもしれないと、ずっと思っています。

 

最近箱から取り出してみて、京都の嵯峨にこのような民芸品があるのかなと、検索してみたのですが、いちど、製造している人の連絡先の痕跡が残っているのが出てきたものの、また検索しても、コレクションしていた人が撮った写真やオークションが出てくるだけです。

はからずも、京都に里帰りしてきただるまさん、箱から出して、他の小さなものも飾ってあるガラスケースに入れました。

 

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